劇中劇や作中作と言う言葉があります。演劇の中で行われる演劇のこと、後者は小説の中に登場する小説のことを指します。
作中に登場する作品が現実世界にあるものを利用することも多いですが、さらにオリジナルを作成する場合もあります。『はてしない物語』などが有名じゃないでしょうか。
本日はそんなオリジナルな作中作が登場する『ロマンス小説の七日間』と言う本のレビューです。
タイトル:ロマンス小説の七日間
著者:三浦しをん
概要:
海外翻訳を生業とする20代のあかりは、現実にはさえない彼氏と同棲中。そんな中ヒストリカル・ロマンス小説の翻訳を引き受ける。最初は内容と現実とのギャップにめまいを感じていたが……。
出典:Amazon
評価:★★★★☆
レビュー:
主人公が翻訳するロマンス小説が作中作にあたります。こうした作中作を読むと、「この作者はこうした小説を本当は書きたかったけど、単行本にするまでには至らないから作中作という表現を利用しようと考えたのかな」と思ってしまいます。
実際のところそのあたりの事情は分かりませんし、こうした小説を書きたいから作中作を作ったというものもあるかと思いますが。わざわざ2作も作る労力を考えると、小説家はやはり途方もない職業だなと思います。
自分で自分の作品にキャラクターを用いて突っ込ませているという表現方法は漫画ではよく見かけますが小説では少ないように思います。三浦しをんは『神去なあなあ日常』シリーズで日記という作中作を登場させていますが、今回は日常的な話の中に表れるロマンス小説が登場するので全くの別物です。
作品の構成は、現実世界の日常的な恋愛話と翻訳するロマンス小説の恋愛話が交互に出てくるスタイルになっています。バタバタと交互に入れ替わるわけじゃなく、主人公目線でロマンス小説に対する感想があり、「2作品を読んでいる」という意識を読者に与えません。三浦しをんは人物描写が非常に上手だと私はいつも読んでいて感じます。主人公の思考を言葉として表現していて、私と全く違う環境にいる主人公の気持ちが理解できるように工夫されています。
私は洋画を見ていると、主人公と自分に差がありすぎて感情移入できないことがあります。しかし、三浦しをんの人物描写を読んでいるとその世界に自分もいるかのように感じることがあります。
私はロマンスやキラキラした恋愛物は苦手ですが、人物の心理描写という視点で読んでみてほしい作品でした。